【3月】贈汪倫
(『看図読古詩(修訂版)』, 金盾出版社, 1994年より)
【大意】
わが輩李白が小舟に乗って、今から出発しようとしたとき、ふと聞こえたのは岸のほとりで足を踏み鳴らしながらうたう歌声だ。ここ桃花潭の淵の水の深さは千尺もあるが、それでもその深さは、汪倫君がわたしを見送ってくれる情の深さには及ばない。
(石川忠久編『漢詩鑑賞事典』講談社学術文庫,2009年より)
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李白(701~762)五十五歳の作と言われるこの詩は、別れの情景をとても温かくユーモラスに表現しています。詩を読んでいると、汪倫たちの足を踏み鳴らして送ってくれる姿、歌声、そして舟に乗って、桃花潭を進み離れていく様子が視覚的にも聴覚的にも浮かんでくるようで、とても賑やかで温かい気持ちにさせられます。
実はこの詩、私達が住み慣れた北京の街を離れる時、よく通っていた餃子店のご主人に書いて贈ったことがあります。この詩を読むたびに、あの小さな餃子店の水ギョーザの味と、ご主人の笑顔を思い出します。人と人との心の交流は、何百年、何千年経っても、おそらく変わらないものでしょう。3月は別れの季節、でも、だからこそ感じられる熱い思い、温かい心の交流があるのではないでしょうか。そして、間もなく4月にある新しい出会いも楽しみですね。