【11月】楓橋夜泊
(『看図読古詩(修訂版)』, 金盾出版社, 1994年より)
【大意】
月は西に落ちて闇の中に烏の鳴く声が聞こえる。厳しい霜の気配は天いっぱいに満ち満ちてもう夜明けかと思われた。紅葉した岸の楓、点々とともる川のいさり火が、旅の愁いの浅い眠りの目にチラチラと映る。
折りも姑蘇の町はずれの寒山寺から、夜半を知らせる鐘の音が、わが乗る船にまで聞こえて、ああ、まだ夜中だったか、と知られた。
(石川忠久編『漢詩鑑賞事典』講談社学術文庫,2009年より)
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張継(生没年未詳)は襄州(湖北省襄陽)の人。進士に及第、節度使の幕僚、塩鉄判官となり、後に朝廷に入った。博識で議論好きな性格だったようで、政治に明るく立派な政治家だったという名声があったといわれています。
詩人としての張継はこの詩一首だけで有名ですが、闇の暗黒と楓といさり火の赤という視覚、そして烏の鳴き声と鐘の音という聴覚の組み合わせが相俟って、やるせない旅人の旅愁を際立たせています。
ご存じ蘇州の寒山寺は江南の風景を残すあまりにも有名な観光地の一つですが、そこで必ずこの詩を刻んだ碑の拓本がお土産物の売店で売られています。張継も果たしてそれを想像したでしょうか。